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  • 2015.06.01

マッスル坂井の「ザッツ・リビング・レジェンド」 #32

マッスル坂井の「ザッツ・リビング・レジェンド」第32回  5・16~5・22『劇場版プロレスキャノンボール2014』in イオンシネマ新潟西

 プロレス業界随一の分析力とプレゼン能力を持つマッスル坂井が、業界のリビング・レジェンドの凄さを、独自の視点で『ビッグファイト』読者に紹介! ……というコーナーですが、最近は雑談メインになりつつあります。
※諸事情により、長期間休載して申し訳ありませんでした。連載再開記念として、本来、無料会員は前半しか読めない本コラムですが、この回は無料公開といたします。


収録日:2015年5月29日 聞き手:松本真一

 
――マッスル坂井監督の映画『劇場版プロレスキャノンボール2014』、ついに地元・新潟で公開されましたね。5月16日(土)~22日(金)まで1週間。

坂井 いろいろありましたけど、結果的に見れば、まあまあ成功だったんじゃないですかね。

――1週間ずっと満員だったんですか?

坂井 いや、満員じゃないですよ。初日は舞台挨拶もあるし、完売したんですけど、2日目はもう半分ぐらい。これは告知用のパワポでもグラフにして全部出してるけど、次の日はまたその半分で。120人、60人、30人、30人、30人みたいな。

――あ、そうなんですね。監督は毎日劇場に行ってパワポをやってたにも関わらず。

坂井 パワポをやってなかったら3人ぐらいですよ。

――ゲストは毎日いたんでしたっけ?

坂井 2日目の日曜にはゲストなしで見どころ紹介パワポだけやったんですけど、観客60人ぐらいだったんですよ。だからこれ、平日だともっと減るなと思って、テコ入れをしなければなるまいということで、日替わりゲストを呼ぶことにしたんです。

――なんか毎日、急なオファーをしてたみたいですね。

坂井 急なオファーじゃないとライブ感が出ないじゃないですか。『プロレスキャノンボール』のいいところは、試合を当日オファーするとこじゃないですか。そこを合わせたかったんですよ。

――なるほど(笑)。

坂井 その日その日の気分とか風向きに合わせて、ゲストをチョイスしたんですよ。

――断られたりもしながら。

坂井 月曜は新潟大学の長尾先生に来てもらって。

――新潟大学技術経営研究科でマッスル坂井を教えている、長尾雅信准教授。

坂井 先生はチケット買ってたんですよね。買った直後に私からメッセージ来て。まあ行く予定だったから断る理由がないということで仕方なくやってくれたんですけど。

――長尾先生は何を話されたんですか?

坂井 一緒にパワーポイントを見てもらって、添削してもらいましたね。私の指導教官なので。

――技術経営学の視点から。何かダメ出しされました?

坂井 いや、全体的にオッケーでした。

――「おもしろかった」と。

坂井 おもしろいというか、「特に直すとこないよ」と(笑)。なんつってたんだっけな、「プロセスのシェアリング・エコノミー(共有型経済)って言葉があったけど、それを進化させたマッスル坂井は、マーケティングの最先端をやっている」というお言葉をいただきました。

――あとで調べます(笑)。で、2日目のゲストが古泉先生。

坂井 コイズミ……小泉八雲先生ね。ラフカディオ・ハーンのペンネームでお馴染みの。

――マジですか(笑)。民俗学者の。

坂井 怪談のね。……違った違った、古泉智浩先生だ。よく間違えちゃうんですよね。LINEとかも間違えて送っちゃうんですよ。すいません。

――(小泉八雲、だいぶ前に亡くなってたような……。)

坂井 古泉先生はひどかったなー。2人で新潟のローカルエンタテイメント業界のゴシップばっかり喋ってましたね(笑)。

――ここで書けない話を。

坂井 そのゴシップトークが楽しくて、「明日も明後日もお願いします」と。水、木の日替わりトークゲストを頼んだんですよ。

――全然日替わりじゃない(笑)。

坂井 逆にね。逆に日替わりじゃないっていうね。でもその時点で、人がなかなか入らないだろうという予想もあったんですよね。そもそも今回の会場になったイオンシネマ西以外にも、新潟市だけでシネコンが4つもあるんですよ。イオンシネマだけでも2つある。クルマがないと行けないし、プチ郊外だし、平日の19時だし、そこから私が30分喋ったうえで2時間以上ある映画見せられるわけですよ。仕事したあとに来るお客さんがかわいそうだなと思うじゃないですか。実際、平日の夜って劇場に人がいないわけですよ。

――まあたしかにボクも平日に映画って行かないですね。

坂井 大きいとこなんて500人以上入る劇場もあるのに、お客が来ないとこもあるらしくて、だから30人とかでもイオンシネマ側はそれだけで凄い嬉しいって言ってくれるんです。だけど、「平日 映画館」ってグーグルに入力してみてくださいよ。そしたらすぐ予想関連ワードに「ガラガラ」とか出てくるわけですよ。でも監督の地元で、そんなの恥ずかしいじゃないですか。そこで思ったんですよ。毎日50人呼ぶよりも、最終日にパンパンにしたほうがいいんです。

――ああ、札止めを1日作るのが大事なわけですね。

坂井 最終日に、初日以上の盛り上がりを見せるほうがいい。初日にも札止めにしてるけど、それ以上にしないといけないと思ってて。「選択と集中」ですよ。

――月曜の時点で「金曜日の最終日、地獄のように楽しい催しを思いつきました」「劇場のスタッフの方に軽く話したら普通に絶句していたので、いけるようなきがしてきました」という悪巧みツイートをしてましたね。

坂井 そうそう。要は、「満員になるまで上映しなきゃいいだけですよね」ってスタッフの方に言ったんですよね。

――満員になるまで監督とゲストのハチミツ二郎さんで解説します、という企画にしたわけですよね。ヘタしたらオールナイトという(笑)。

坂井 そしたらスタッフも絶句しつつ「おもしろいですね」と。

――それに付き合ってくれる劇場のスタッフ凄いですよね。帰りたいだろうに(笑)。

坂井 そうなんですよ。新潟、変なヤツいるんですね。だから火、水、木に来た人には、「最終日にはハチミツ二郎さんが来ます」「こういうことやります」って舞台挨拶で作品の内容そっちのけで金曜日のイベントにむけての熱い意気込みを俺がパワポで解説してるわけですよ。

――要は「もう1回来い」ってことですよね(笑)。

坂井 そう。でもそういうのって大事かなって思って。最終的にはのめり込ませたいわけじゃないですか。プロレスや、『プロレスキャノンボール』に。熱狂的なファンを作りたいんです。

――1回観て「おもしろかった」で終わるんじゃなくて、熱狂的ファンになってほしい。

坂井 熱狂的におもしろがってるお客さんが、友達に薦めたくなるような作品や場所を作るのがボクの仕事だと思ってるんですよ。ボクが直接テレビやラジオで「皆さんおもしろいので来てくださいね」って言うのって、宣伝会社とか通してやりはじめると凄くお金がかかるし、いまは現実問題としてできないんですよ。だけど、熱狂的ファンに広めてもらうっていう、最新のマーケティング用語で言うなら「B to C to C」ですかね。

――「Business(企業)からCustomer(顧客)」で終わるんじゃなく、顧客が顧客を呼ぶ。

坂井 お客さんがお客さんに口コミしたくなる仕掛けを作りたいなって思ってて。そういうのを実験するチャンスなわけですよ。

――なるほど。で、「満員になるまで上映しない」という試みは、結果はどうだったんですか? この試みを発表して、とりあえず注目度は高まりましたよね。

坂井 だから劇場も変えてもらったんですよ。124人の所から、200人ぐらいの所に。結果的には150人弱入りました。

――おお、初日超え。

坂井 奇跡の初日越え。映画館って、ホントは初日よりも最終日のほうが入らないといけないんですよ。観た人の口コミで最終日にむけてたくさん来るのが本来、正しい姿じゃないですか。

――そうですね。最終的には150人弱ってことは、人はわりとすぐ集まって、定時に始まったんですか?

坂井 定時の時点で売れてたんですぐ始められたんだけど、まず自分と二郎さんでいろいろと挨拶をして。で、この日もうひとりのゲストだった大家さんにイオンのなかでチラシを配ってもらってたんですよ。じつはその大家さんを使って、やりたいことがあったんです。

――そんな予定が。

坂井 予定では、俺が「舞台挨拶終わったからいつでも帰ってきていいよ」って電話したら大家は「最後の1枚まで配るんだ」って言って、帰ってこない。次に大家さんに電話して「チケットもう売れてるから帰ってきていいよ。もう先に始めてもいい?」って言ったら、大家さんが「いや、俺もチケット買ってるから待っててくれ、みんなと一緒に観たいんだ」って言って、「じゃあ早く来てくださいよ」って電話切って、しばらく二郎さんとトークで繋ぐけど、いつまで待っても大家さんが来ない。そして3回めの電話をしたら、大家さんがイオンのなかで迷子になってると。

――迷子になる予定(笑)。

坂井 で、みんなで手分けして大家さんを探しに行くという、いわゆる「脱出ゲーム」的なことをやろうと思ってました。

――超楽しそう!(笑)。

坂井 そういう、ツイッターとかを使って、お客さんを揺さぶって、巻き込んでいくっていうことをやりたかったんです。

――体感型というか。

坂井 巻き込まれるとのめり込むんですよ。

――確かに、共犯者みたいになって、「楽しかった!」って人に言いたくなりますよね。

坂井 巻き込むことがのめり込ませるための第一歩なんで。

――手の内を明かしますね。

坂井 こういうこと言うと仕事しにくくなるんですけど……この連載が久しぶりなんで言いますよ。

――ついにそこに触れた(笑)。でもツイッターでの、坂井さん、大家さん、あと大家さんが働いてるエビスコ酒場の店長であるKUDOさんとの、「大家さん、エビスコ休んで新潟に来てください」的なやりとりは、見てて「どうなるんだこれ」ってのめり込みましたからね。
 
※Togetterまとめ『観客100人来るまで始まらない劇場版プロレスキャノンボール2014』
http://togetter.com/li/824138
の2ページ~3ページ参考
 
坂井 そうそう。私がエビスコ酒場に行って、皿洗いしますよっていう。そういうキャノンボール感を出しつつ、大家さんが劇場に来たけど、今度は迷子になって、みんなで知恵を出し合って探すって、楽しいじゃないですか。1本目の電話で「最後の一枚を配るまで帰らないよ」っていう、真面目で一本気な、不器用な人間だなってのを見せる演出だったわけですよ。その3本の電話があって、そのあと大家が見つからない、やっと会えたっていう喜びと感動のあとに『プロレスキャノンボール』を観ることで「ええ~!」「大家さん……」ってなるっていう(笑)。

――ネタバレになるので詳しくはアレですけど、あの映画はとにかく大家さんに対して「ええー!」っていう内容ですからね。

坂井 ……っていう仕掛けを考えていたにも関わらず、1本目の電話で、「ああ、じゃあすぐ劇場行くよ」って言われて。

――え?(笑)。

坂井 あれ? って思ったんだけど、電話の声はスピーカーで劇場に鳴り響いちゃってるんで。

――打ち合わせをちゃんとしときましょうよ(笑)。

坂井 打ち合わせなんかないですけど、あれ、なんかおかしいなと思って(笑)。忘れてたのかな……。で、そのあと5分、10分話して「なかなか大家が来ないな」って思うはずが、すぐ来ちゃったんですよ(笑)。

――それであっさり開始したんですね(笑)。

坂井 はい。でもそれでも、公開初日よりも人が集まってくれて。初日はDDT好きが集まってくれてたんですけど、最終日は映画ファンがちゃんと集まってくれてたんですよ。ミニシアター系からなんでも観るような人たちが途中の日程で観てくれて、ちゃんと口コミでお客さんを呼んでくれてたんですよ。あと地元でテレビやラジオの仕事をしてるような人たちが集まってくて、それが嬉しかったですね。しかも、異様な盛り上がりだったんですよ。私はちょっと照れくさくて、劇場にいれなかったぐらい。

――おお。大家さんはどんな感じでした?

坂井 相変わらず泣きながら映画観てましたよ。

――まだ泣くんですか!(笑)。

坂井 それに二郎さんは喋るの上手いし、舞台挨拶から上映まで、いい雰囲気でしたね。

――新潟上演、大成功ですね。

坂井 こういうこと言ったらやらしいかもしれないけど……完全に新潟内で一段上がった感じがしますね。

――ワハハハハ!

坂井 東京ではね、「ここは外しちゃいけない」ってとこ、がんばってきたと思うんですよ。2015年で言うと、『プロレスキャノンボール』、さいたまスーパーアリーナでの桜庭和志戦、男色ディーノと組んでの関本大介&岡林裕二戦、ニコニコ超会議。

――新潟では特に実績がないというか。

坂井 『八千代コースター』はスタッフが熱いんで、俺はその熱に応えるだけですし。でも新潟でのキャノンボール上映は自分ががんばるしかないとこですから。まあ、映画は観てもらえたらおもしろいと言ってもらえるとは思ってたんですけど、それだけでは足りないなと。

――チケット代以上のものを見れるとのめり込みますからね。

坂井 だから、一段上がった感じがしますよね。具体的には言えないですけどね。

――やらなくていいことまでやった。つまり、生産性の低いことをやったことで熱狂を産んだ甲斐がありますね。

坂井 いや……ないです(笑)。

――え?(笑)。

坂井 これから、より生産性が低い作業が待ってるんですよ。だって、こんなことやったら「もっともっと」ってなるわけじゃないですか。

――なるほど(笑)。6月からは都内、ポレポレ東中野でまた『プロレスキャノンボール』の上映予定がありますが。

坂井 地獄が待ってますよね。こういうのが得意な人だと思われたら、「ああいうのお願いします」ってあっさり言われてしまいますから。

――「あれおもしろかったんで」って(笑)。おまけがないと満足できない。

坂井 はい。「巻き込まれたい」と。

――……東中野でもがんばってください。

坂井 でもそれは、東京在住組の仕事じゃないかなって俺は思ってるんだけどな~~~~。
 
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